はじめに
クラフトビールは香りや味わいが繊細な飲み物です。
製造のこだわりだけでなく、その品質を保ったままどのように輸送されているかによって、飲んだときの感動は大きく左右されます。
本記事では、輸入ビールの代表的なルートや、国内流通における温度管理の課題、そして物流の工夫について解説します。
※執筆にあたり、CRAFT DRINKSさんの記事を参考にさせていただきました。
なぜ温度管理が重要なのか?
ビールの風味を構成するホップの香気成分や炭酸ガスは、高温にさらされると急速に失われます。また、酸素や紫外線との反応によって「酸化臭」や「日光臭(スカンク臭)」が発生し、元の味わいとはかけ離れた状態になります。
特に輸送中の温度上昇はリスクが高く、トラックの荷室内温度や海上輸送時のコンテナ内温度は、外気温よりはるかに高くなることが確認されています。国土交通省やJAFの実測調査によると、夏場の荷室は40〜60℃まで上昇することもあります。
この点について、「CRAFT DRINKS」さんでは以下のように述べられています。
「ビールは50℃以上で即死、40℃でもほぼ即死、30℃では瀕死の状態です。」
引用元:CRAFT DRINKS「さて、そろそろ『流通と品質』の話をしよう③ 輸入編」
https://craftdrinks.jp/2016/05/23/さて、そろそろ「流通と品質」の話をしよう③-輸/
こうした理由から、クラフトビールの輸送には常に3~7℃の温度帯を維持することが求められるわけですね。
リーファーコンテナとは? なぜ必要なのか?
リーファーコンテナとは、冷蔵機能を持ち内部の温度を一定に保てる専用コンテナのことです。冷凍・冷蔵食品の輸送で多く使われており、クラフトビールにおいても高品質を維持する輸送手段として注目されています。
ヨーロッパやアメリカから日本に輸送する際、多くの航路がシンガポールや中東などの赤道地帯を経由します。このエリアでは一年中30℃を超えており、温度管理をしていない通常のドライコンテナでは、積荷が高温にさらされてしまいます。
「CRAFT DRINKS」さんの記事ではこのように明記されています。
「こういう原因を排除するにはリーファーコンテナを使用するしか無いのです。」
引用元:CRAFT DRINKS「さて、そろそろ『流通と品質』の話をしよう③ 輸入編」
https://craftdrinks.jp/2016/05/23/さて、そろそろ「流通と品質」の話をしよう③-輸/
リーファーコンテナは一般的なコンテナに比べて輸送費が2〜3割ほど高く、積載量もわずかに減りますが、それ以上に「品質保持」という意味での価値が非常に大きく、信頼性の証とされるイメージでしょうか。
日本国内の配送はどうなっているのか?
日本国内のクラフトビール流通ルートは、主に以下のように分類されます。
・輸入元・醸造所 → 一次問屋 → 地方問屋 → 酒販店・飲食店
・醸造所から直送(飲食店・小売店)
・醸造所・ブランドからのEC発送(個人宅)
都市部の飲食店・小売店への納品にはクール便や保冷車が導入されつつありますが、地方配送や小規模醸造所ではいまだに常温便が利用されているケースもあり、物流格差が課題となっています。
また、クール便の運賃は通常配送に比べて1.5〜2倍程度高いため、飲食店側・醸造所側どちらが負担するかで取り扱いが分かれることもあります。
保冷容器や配送技術の進化
近年では、クラフトビールの品質保持のために次のような技術が導入されています。
・PCM蓄冷剤:3〜5℃帯を長時間安定して維持できる保冷材。
・断熱性の高い通い箱:再利用可能で環境にも配慮。宅配便にも対応可能な折り畳み式なども登場。
・IoT温度ロガー:配送中の温度履歴を記録し、店舗側・醸造所側が品質管理に活用できる。
これらの技術は、リーファーコンテナを使えないシーン(ラストワンマイル、EC配送など)でも、品質を保ちながら届ける工夫として注目されています。
まとめ
クラフトビールの品質は「作り手の技術」だけでは守れません。「どうやって届けるか」もまた、香りと味わいを支える重要な要素です。
海外からの輸送ではリーファーコンテナが不可欠であり、日本国内でもクール便や保冷容器の工夫が欠かせません。輸送温度を意識しないまま流通させれば、せっかくのビールも台無しになってしまう可能性があります。
物流の改善は、クラフトビールの価値を未来へつなぐための「静かな革命」でもあります。消費者としても、輸送や保管に配慮した製品を選ぶことで、その品質を支える一翼を担うことができるでしょう。