「試験では十分な保冷時間が確認できたのに、実際の配送では途中から温度が上がってしまう」
こうしたケースでは、容器そのものの断熱性能だけでなく、配送途中の「開閉」が影響している可能性があります。
特に、複数の納品先を回るルート配送では、到着するたびにふたを開け、商品を取り出し、再び閉める作業が繰り返されます。
保冷容器を選ぶ際は「何時間保冷できるか」だけでなく、「実際に何回、どの程度の時間開けるのか」まで考えることが重要です。
「保冷○時間」は、使用条件によって変わる
保冷容器の性能は、断熱材の厚みや構造だけで決まるものではありません。
外気温、内容物の量、初期温度、蓄冷剤の種類や配置、そして開閉条件によっても結果は変わります。
例えばWHOがワクチン輸送用のパッシブ容器について示す「cold life(保冷持続時間)」は、容器を閉じた時点から、一定の外気温下で内部の最も暖かい位置が規定温度に達するまでの時間として評価されています。
またWHOのワクチンキャリアに関する資料でも、不必要にふたを開けると熱が入り込むため、開閉を避けるよう注意されています。
つまり、容器を閉じた状態で確認された保冷時間と、配送先ごとに何度も開閉する実運用とでは、そもそもの条件が異なるのです。
開けたとき、容器の中では何が起きる?

保冷容器を開けると、外気との空気交換が起こり、外部から熱が入り込みます。
蓄冷剤は「冷気を出し続ける」ものではなく、周囲から熱を吸収することで温度上昇を抑えるものです。
そのため、開閉によって新たな熱が持ち込まれるたびに、その熱も容器や蓄冷剤で受け止める必要があります。
冷蔵車を対象にした研究でも、扉を開けることで外気が流入し、庫内の温度や熱負荷が変化することが確認されています。
2025年に発表された2.5トン冷蔵車の研究では、扉の開放条件や積載量によって温度上昇の仕方が変化し、半積載時は無積載時より温度上昇速度が約23%遅くなりました。
もちろん、冷蔵車と小型の保冷容器ではサイズも構造も異なるため、この数値をそのまま保冷ボックスに当てはめることはできません。
ただし、「断熱性能だけでなく、開口部や積載状態など実際の使用条件によって温度変化が変わる」ことを示す一例といえます。
「何回開けたか」だけでは判断できない

注意したいのは、開閉回数だけを見ても十分ではないことです。
同じ10回の開閉でも、1回5秒で閉める場合と、商品を探しながら30秒開ける場合では条件が大きく異なります。
また、真夏の屋外と空調されたバックヤードでも、容器に入ってくる熱の条件は変わります。
さらに配送が進み商品が減れば、容器内の空間や内容物の熱容量、蓄冷剤との位置関係も変化します。
そのため、以下のような条件をセットで考える必要があります。
- 外気温
- 開放時間
- 開閉回数
- 開口部の大きさ
- 商品の積載量
- 商品の初期温度
- 蓄冷剤の量、温度帯、配置
開閉を前提にした容器設計という考え方
配送中の開閉が避けられないのであれば、「なるべく開けない」という運用面の対策だけでなく、開けることを前提に容器を設計するという考え方も重要です。
例えば、ふたを分割して必要な部分だけ開けられる構造にする、正面に取り出し口を設ける、配送先ごとに商品を区画して探す時間を短くする、といった方法があります。
シーエスエスでも、上面だけでなく正面から商品を取り出せる運送車両用ボックスや、開閉部を分割した容器など、実際の配送作業を考慮した設計を行っています。
大切なのは「実際の配送条件」で試すこと
海外では近年、PCM(相変化材料)を備えた保冷容器について、容器の開閉や外部環境の変化まで含めて内部の温度分布を解析する研究も行われています。
2025年に発表された研究では、370Lの断熱容器について「閉じた状態」と「開けた状態」の双方を対象にモデルを構築し、実験データとの比較も行われています。
研究者らも、開閉や内容物の入れ替え、外部環境の変化を考慮することが、実際のコールドチェーンを評価するうえで重要だとしています。
業務用の保冷容器でも、単に「一定温度の環境で8時間閉めたまま」といった条件だけではなく、実際の運用に合わせて、例えば以下のような条件を設定することが考えられます。
- 30分ごとに開ける
- 1回20秒開放する
- 配送順に商品を減らしていく
こうした条件を設定して試験することで、導入後の温度変化をより現実に近い形で確認できます。
保冷性能は、容器単体のスペックだけで決まるものではありません。
シーエスエスでは、使用環境や配送時間、内容物、開閉方法などを確認したうえで、実運用を想定した保冷容器の設計・性能試験に対応しています。
「試験では問題ないのに現場では温度が安定しない」
「配送件数が増えると後半の温度が不安」
そんな場合は、容器の性能だけでなく、実際にどのように開け、どのように商品を取り出しているかまで含めて見直してみることが大切です。
